厚生労働省労働策担当参事官室 御中

         2004年6月15日
                     全日本金属情報機器労働組合
                      中央執行委員長 生熊 茂実

労働におけるCSR(企業の社会的責任)についての要請書

 厚生労働省は、「労働におけるCSRのあり方研究会」を設置し、「6月中を目途に取りまとめをおこなう」予定とされています。取りまとめの時期にあたって、労働におけるCSRに重大な関心をもつ労働組合として意見を述べ、取りまとめに反映されるよう要請するものです。

 なお、すでに全国労働組合総連合が5月31日付で「要請書」を提出しているので、それを前提にして、最小限の意見にとどめます。

 なお、5月14日に厚生労働省要請をおこなった際、「要請の文書を出せば、研究会に配布する」という確認をいただきましたので、そのようにお取り扱いいただくようお願いします。

1、CSR(企業の社会的責任)のなかでも、労働におけるCSRは、最も重視されなければならないと考えます。


1)最近の三菱自動車の「欠陥かくし」、「クレームかくし」による大事故の責任問題を考えてみても、その原因に、「法令遵守」という概念が不足しているだけでなく、「おかしいことはおかしい」といえない企業体質に大きな問題があることは明らかです。さらに新日鉄・ブリジストンなどの大企業における爆発・火災事故の続発などでも、「利益優先」の企業行動のなかで、「利益につながらない」とされる「安全」や「検査」が軽視されていることに要因があることは、周知の事実です。

2)企業としては利益を追求することは当然ですが、労働者・労働組合は、日常の労働の実態や経営の動向から、「やってはいけないこと」や安全などについての「危険予知能力」をもっています。ですから、企業の社会的責任を果たさせるうえで、労働者・労働組合の果たす役割は、決定的に大きいものがあります。


3)これらを考えると、労働におけるCSRを考える場合に、その中心となるのは、職場において、労働者が法令や社会的規範を遵守する立場で、安心して意見がいえる職場環境をつくることが重要だということです。そのことを、法的な対応や行政指導をふくめて、国の責任で実施することが必要であり、それなしに、「心がまえ」に解消してしまえば、実効性は担保されません。

 そうすれば、企業の商品についての安全責任や問題点などが、早期に明らかになり、深刻な事態を招く前に解決の道を見出すことが可能になります。

2、労働のCSRの土台は、企業におけるさまざまな差別を禁止し、労働者が協力し合い、ものが言える職場にするための実効ある措置をとることです。

1)前項でも述べたように、労働者は日々の労働や企業動向から、企業の社会的責任について、さまざまな意見をもっています。しかし「利益最優先」が叫ばれ、「トップダウン」型の経営方針が重要視されるなかで、ほとんどの労働者は、経営者の方針と異なった意見をもっていても、それを発言することができない状況にあります。

 なぜなら、日本の企業のなかでは、思想差別をふくめて、経営者と異なった意見を許さないという労務政策がいまだ中心となっているからです。EUやOECDにおけるCSRの中心には、人種差別や年齢・性差別を禁止し、人権を尊重することが謳われていますが、この視点をぬきにしては、労働におけるCSRは意味がありません。


2)ことし3月22日、私たち全日本金属情報機器労働組合や多くの労働組合、労働者のたたかいによって勝利した「石川島播磨人権闘争」のなかで、裁判所における和解条項において、「コンプライアンスガイド」を労使で確認しました。その教育のために別紙のように「会社および従業員がやってはならない差別の事例」を確認し、それが14項目にわたって列挙されています。逆にいえば、こういう差別が職場のなかでは厳然としておこなわれてきたということでは、空恐ろしさを感じます。

 企業のなかで、労働者がCSRの意識をもち、それを日々の職場生活と労働のなかで実現していくには、このような「コンプライアンス」をすべての職場で実施することが必要であることはいうまでもありません。石川島播磨重工業でも、一定の実行にふみだしています。このような「コンプライアンス」は、すべての職場で実施しなければならないものであり、また実施が可能であるということです。

 この「別紙資料」を内容としてふくめ、差別を禁止する法的措置を中心とする労働におけるCSRを提示していただくよう強く要請します。

3、労働におけるCSRの基本は、労働条件や地域経済に影響を与える企業の重要な施策について、労働者・労働組合に「情報開示」と「事前協議」をおこなうことが企業の社会的責任であることを、法的措置をふくめて明白にすることです。


1)すでに述べたように、企業の社会的責任を果たすうえで、労働者・労働組合の果たす役割は決定的です。また、狭い意味で労働におけるCSRとして考えたときにも、「工場閉鎖」や「子会社解散」などによる大量解雇など、労働者への一方的な犠牲強要は、単に労働者の雇用が奪われるというだけでなく、企業自体の活力をそぎ、あるいは社会的・地域的に深刻な悪影響を与えることも多くの事例で明らかになっています。


2)この種の問題を解決する基本は、経営の重要な施策の実施や労働条件の変更については、労働者・労働組合に事前に情報を開示し、十分な協議をつくすことです。また地域経済に悪影響を与えるような場合に、地方自治体や地域の労働団体や経済団体への情報開示と事前協議が必要です。

 そういうことが実現できれば、どうしても「事業所閉鎖」が避けられない場合でも、「代替雇用」をふくむ企業としての雇用保障の責任、あるいは経済的補償による地域経済への責任の果たし方など、解決の方向をつくることができるのです。

                               以 上